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朝日新聞社
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カスタマーレビュー ![]()
現場発の熱い意見
(2008-12-16)
2006年の発売とともに、話題になっていた本。やっと読むことができました。
今、ますます問題となっている医療現場の疲弊を、まさに現場の医師が
説得力を持って述べた本書は、歯切れのよい文体もあり、インパクトを
残す名著でした。
すべてに賛同するわけではないにしても、ともかく行間から立ちのぼる
「どうにかしなくては」という思いが伝わる、凄い本です。
筆者の主張をまとめると以下になります。
1)医療には限界があること
>医療には限界がある。しかし、多くの患者はこれを実感として
>理解していない。
>生命を守ることを医学の任務とするならば、医学は最終的に、
>100パーセント任務遂行に失敗する。
>現代医学には、身体で起こっていることを大まかに想像する程度の
>能力しかないからである。
>医療に大きなリスクが伴うことを社会に認知させたのが、1999年に
>アメリカで出版された米国医療の質委員会/医学研究所による
>「人は誰でも間違える」である。
>題名そのものが、事故が起きることは避けられない、事故そのものを
>冷静に分析して医療の安全をはかることが必要であると雄弁に提案した。
2)しかし、その限界を、患者や警察、法律家、ジャーナリストが
わかっておらず、医療への現実離れした厳しい要求が出るようになったこと
>患者のみならず、法律家やジャーナリストも安心・安全願望に支配
>されている。過度な安心・安全願望が満たされることはありえず
>不安と攻撃性をうむ。法律家やジャーナリストも患者側の一員として
>医療への攻撃に加担している。
>患者は疑心暗鬼で医療をみるようになってきた。
>医療の結果が本人の望んでいた通りでないと、
>とげとげしい反応が出てくるケースが明らかにみられるように
>なった。
ひいては、実体のない感情的な世論にそった無責任な記事をかいて、
医師を追いつめていることなども指摘されています。
3)その結果、医療現場の士気が低下し、ますます医療の質が低下していること
>こうした中、勤務医が、じっと我慢して患者のために頑張ることを
>放棄し始めた。
>日本の勤務医は、(中略)、自らの知識や技量に対する自負心と、
>病者に奉仕することで得られる満足感のために働いている。
筆者によれば、勤務医は理不尽さのなかで、声をあげるよりは
病院から立ち去ることを選ぶ、とのことでこれが本書のテーマにも
なっている「立ち去り型サボタージュ」ですが、そのために
産科など厳しい現場がますます人手不足で厳しくなり、人員配置
という構造からみても事故が起こりやすくなっていることを
指摘しています。
筆者は医療寄りなばかりでなく、日本の医療の密室性、封建制に
ついても批判しており、たとえば昭和大学の医療事故では、
「この事件の解明が、警察の関与があってはじめてなされたことを
残念に思う」と述べています。
印象に残ったのは、医師が、これほど患者の態度によって、
士気を喪失したり士気を高揚させたりする職業だということ。
よい医療を確保するために、患者として、あるいはそれぞれの
立場として何が出来るのかを、あくまで理性的に考えなくては
ならないのだと思いました。
「医療と患者の齟齬」
(2008-09-25)
「医療崩壊」が社会問題であることを決定付けた本。
大病院の現役部長が執筆したことで、「現場から発言する医師」が台頭する契機ともなった。今更ながらレビューを書くのはためらわれる記念碑的著作であるが、今から「医療問題」を考える人は一読されることをお勧めします。入門書としてはアクが強いですが。
本書の結論は「医療と患者の齟齬」を何とかしないと医療崩壊は止まらないということである。 医療問題をかじった者なら、つい、「医師を増やせ」、「診療報酬の引き上げを」と具体的な要求に走りがちであるが、著者はさらにそれらの政策を可能にする「世論」を形成するにはどうすれば良いかまで踏み込んで提起をしている。
「医療と患者の齟齬」の原因についての推論も、報道や死生観などを踏まえて広角に論じられているが、著者の社会認識はかなり厳しく、展望も厳しく捉えている。正直、悲観的な気分になる印象もあるが、軽い希望よりはよほど、現実の役に立つ視点を与えてくれる。
部分的には開業医をなみするような記述や、リーダーを求めるような記述は違和感も感じるが、それらを含めて極めて率直な本である。
責任ある立場の医師が実名で語る覚悟の本であり、そういった部分も含めて一読の価値が間違いなくある、と思える。
医療崩壊への解決策を提起した、熱のこもった名著
(2008-03-23)
「はしがき」によると、本書は「研究でも評論でもない。第三者的意見ではなく、現場の医師としての立場の意見である。危険な状況にある日本の医療を分析し、崩壊させないための対策を提案した」とある。そのように読まれるべきだ。
医療訴訟が多くの医師の士気を損ない「立ち去り型サボタージュ」を招いているという著者の指摘には、納得がいく。「日本全国で、勤務医が、楽で安全で収入の多い開業医にシフトし始めた。今、日本全国の病院で医師が不足している。小児救急は全国的に崩壊した。産科診療も崩壊が進行している。」 (p.158)
本書は、意見を述べる書、言い換えれば論争の書である。こうした本を読むには、まず、その論旨を把握しようとするのが、基本的な作法だろう。「言い訳しようとしているのではないか」「人を見下しているのではないか」「何か裏の意図があるのではないか」などということに気をとられながら読むと、全体として何が書いてあるかわからなくなる。それでは、何万冊読んでも得るものは少ないだろう。
著者は、医師の「情」が医療崩壊を招く大きな要因になっているということを、冷静に述べている。その「情」を述べた部分に触発される医師が多いとしても、「だからこの本に「理」をぶつけるのはほとんど不可能だ」としたら、読者が「理」をぶつけるためには、著者は自分が「理」と信ずることの一部を書かずに済まさねばならない。日頃、「情」に支配されていると、他人の言葉にも「情」しか見えなくなりがちだ。いきり立たずに、考えてみてほしい。
まともな読書もまともな言論もなかなか行われない、わびしい現状の中で、「言霊のくに日本の問題解決能力に期待して努力を続けたい」(はしがき) と述べる著者に敬意を表し、心から声援したい。
全ての国民に向けた問題提起
(2007-11-03)
日本でも社会問題となりつつある医療崩壊について、臨床医の立場から問題点を整理し、行政的な解決策を提示した本。問題の社会的重大さに比して、現場をよく知る医師によって書かれたこうした本はまだまだ少ないだけに、日本の医療システム問題を考える上で貴重な書である。私は医療関係者ではないが、そうした一般の人々がこの問題の現状を理解するにもためになる本である。
本書は特に、医療ミスに対する医療関係者の刑事的・民事的責任が非常に大きくて曖昧であることを問題点として大きく取り上げている。こうした問題は、特定の分野において医療従事者を確保することを困難にしたり、関係者が萎縮することによって医療の質を下げる恐れが大きい。医療ミスの問題は、医療・警察・司法・行政の問題が絡み合っており、現行の法体系に基づく個別事例の裁判というミクロ的な方法では社会全体にとって望ましい基準が作られるとは期待できない、という著者の主張は説得力がある。
本書の後半では、病院と診療所の診療報酬の格差問題、イギリスの医療崩壊やスウェーデンの補償制度、大学・医局の問題、厚生労働省の問題にも触れており、医療システムの問題を俯瞰するために有用である。
本書は豊富なケーススタディーに支えられている反面、マクロ的なデータによる裏づけや、財政面を考慮した医療システム全体の資源配分の問題については十分な言及や分析はなされていないように感じた。診療報酬の問題に関しては筆者の日本医師会に対する遠慮も感じられる。しかし、本書はあくまで一臨床医による考察であり、こうした点は必ずしも本書の価値を下げるものではないだろう。
医療現場に、絶滅したはずの「知識人」がいた
(2007-10-22)
これは、すごい名著で、大感動。
これほどの素晴らしい本が、ノンフィクション系の賞をなぜ取らないのかな。(いや、私が知らないだけで取っているのか?)
著者は現職の泌尿器科医だが・・。それとともに、社会に対して、自分の専門知識と、自分が蓄えた幅広くて見識高い学識を元に、自分の意見を強く主張していく、真の意味での「知識人」だ。(嫌味なく、ちらつかせる、文系的教養も素晴らしくかっこいい!)
こんな立派すぎる「知識人」が、日本にまだ、いたとは・・。渡辺淳一とか、医者出身の作家たちは何してるんだよ。あんたらが、やるべき仕事だろう、こういうのは。「ボケちから」だかなんだか言ってる場合じゃないだろう。
この本の主張は、本来十分な予算を与えられていない医療の現場の人々が、「被害者に同情的すぎる」マスコミ、警察、検察などに、「本来、個人が責任を取ることはできない、システム的なミス、人員的に必然的に発生するミス」にまで、過大な責任を取らされ、刑事被告人にまでされていることに恐怖を感じ・・。
そういったリスクが高い、外科や産婦人科や小児科、総合病院の現場から、どんどん逃亡していっているというものだ。
彼らの逃げ場は、開業や、民間クリニックでの勤務だ。そして、彼らに逃げられて、ますます人員が少なくなった総合病院は、さらに運営が苦しくなるという、悪循環。
おそろしく説得力がある筆致であり、そしてこの国の医療の将来が恐ろしくなる。
医師等を攻撃する人々は、「過剰な安全幻想と不老不死願望」をもっているが、著者は「医療は、本来的に人体に侵入的なものであり、必ずリスクを持っている。そして人間は必ず、死ぬものだ」という。
この本は本来、検察官向けの意見書として書かれたという。
また、最後の章は「新聞記者などのジャーナリストたちは自分で考えておらず、空気のような『世論』しか書いていない」というジャーナリズム批判であり、編集担当の朝日新聞社の編集者と大議論となったという。
「編集者と対立した」という経緯を、そのまま著書に書けてしまう、著者の覚悟と迫力もすごい。
是非、著者の意見が、この国の医療の将来を変えるために、受け入れられてほしい。

